前回に説明した、相続に関するルールの変更について、少し詳しくおはなしします。以下に説明しますのが、2019年1月13日から段階的に施行されたもので、新たに加わった内容です。

 

1.配偶者居住権の新設

 配偶者が相続開始時に被相続人所有の建物に住居していた場合に、配偶者は遺産分割において配偶者居住権を取得することにより、終身または一定期間、その建物に無償で住居することができるようになります。被相続人が遺贈等によって配偶者に配偶者居住権を取得させることもできます。

 

2.婚姻期間が20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与等に関する優遇措置

 婚姻期間が20年以上である夫婦間で居住用不動産(重要建物又はその敷地)の遺贈又は贈与がされた場合については、原則として、遺産分割における配偶者の取り分が増えることになります。

[改正によるメリット]:このような規定(被相続人の意思の推定規定)を設けることにより、原則として遺産の先渡しを受けたものと取り扱う必要がなくなり、配偶者は、より多くの財産を取得することができる→贈与等の趣旨に沿った遺産の分割が可能となります。

 

3.預貯金の払い戻し制度の創設

 預貯金が遺産分割の対象となる場合に、各相続人は、遺産分割が終わる前でも、一定の範囲で預貯金の払い戻しを受けることができます。

[改正によるメリット]:遺産分割における公平性を図りつつ、相続人の資金需要に対応できるよう、預貯金の払い戻し制度を受けました。

ⅰ、預貯金債権の一定割合(金額による上限あり)については、家庭裁判所の判断を経なくても金融機関の窓口における支払いを受けられるようになりました。

ⅱ、預貯金債権に限り、家庭裁判所の仮分割の仮処分の要件を緩和されました。

仮払いの必要性があると認められる場合には、他の共同相続人の利害を害しない限り、家庭裁判所の判断で仮払いが認められるようになりました。(家事事件手続法の改正)

 

4、自筆証書遺言の方式緩和

 直筆証書遺言についても、財産目録については手書きで作成する必要がなくなります。※財産目録の各頁に署名捺印をする必要があります。

 

5、法務局による自筆証書遺言の保管制度の創設

 自筆証書遺言を作成した方は、法務大臣の指定する法務局に遺言書の保管を申請することができます。

 遺言者の死亡後に、相続人や受遺者らは、全国にある遺言書保管所において遺言書が保管されているかどうかを調べること(遺言書情報証明書の交付請求)、遺言書の写しの交付を請求すること(遺言書情報証明書の交付請求)ができ、また、遺言書を保管している遺言書保管所において遺言書を閲覧することもできます。

※遺言書保管所に保管されている遺言書については、家庭裁判所の検閲が不要となります。

※遺言書の閲覧や遺言書情報証明書の交付がされると、遺言書保管官は、他の相続人等に対し遺言書を保管している旨を通知します。

 

6、遺言の活用

 遺言とは、自分が死亡したときに財産をどのように分配するか等について、自己の最終意思を明らかにするものです。遺言がある場合には、原則として、遺言者の意思に従った遺産の分配がされます。

 また遺言がないと、相続人に対して財産が承継されることになりますが、遺言の中で日ごろからお世話になった方に一定の財産を与える旨を書いておけば(遺贈といいます)相続人以外の方に対しても財産を取得させることができます。

 このように、遺言は、被相続人の最終意思を実現するものです。これにより相続をめぐる紛争を未然に防止することができるというメリットもあります。また、家族のあり方が多様化するなかで、遺言が果たす役割はますます重要になってきています。

 わが国においては、遺言の作成率が諸外国に比べて低いと言われています。今回の改正により自筆証書遺言の方式を緩和されました。法務局における保管制度を設けるなどしており、自筆証書遺言を使いやすくしています。

[遺言の方式]

遺言の方式には、主に自筆証書遺言と公正証書遺言があります。

「自筆証書遺言」

 自筆証書遺言は、軽易な方式の遺言であり、自書能力さえ備わっていれば他人の力を借りることなく、いつでも自らの意思に従って作成することができ、手軽かつ自由度の高い制度です。今回の立法により、財産目録について自書しなくても良くなりました。法務局における保管制度の創設され、自筆証書遺言はさらに利用しやすくなりました。

 

「公正証書遺言」

 公正証書遺言は、法律専門家である公証人の関与の下で、2人以上の証人が立ち会うなど厳格な方式に従って作成されます。公証人がその原本を厳重に保管すると言う信頼性の高い制度です。また、遺言者は遺言の内容について公証人の助言を受けながら、最善の遺言を作成することができます。また、遺言能力の確認なども行われます。

 

7、遺留分制度の見直し

ⅰ、遺留分を侵害された者は、遺贈や贈与を受けた者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の請求をすることができるようになります。

ⅱ、遺贈や贈与を受けた者が金銭を直ちに準備することができない場合には、裁判所に対し、支払期限の猶予を求めることができます。

[改正によるメリット]

ⅰ、遺留分減殺請求権の行使により共有関係が当然に生ずることを回避することができます。

ⅱ、遺贈や贈与の目的財産を受遺者等に与えたいという遺言者の意思を尊重することができます。

 

8、特別の寄与の制度

 相続人以外の被相続人の親族が無償で被相続人の療養看護等を行った場合には、相続人に対して金銭の請求をすることができます。

[改正によるメリット]:相続開始後、例えば長男の妻は、相続人(長女や次男)に対して、金銭の請求をすることができる。→介護等の貢献に報いることができ、実質的公平が図られます。

 

 以上のように、今回の改正によって以前から指摘されていた現状にそぐわない点の多くが修正されました。最近は遺言や相続について調べたり、問い合わせをする方が増えて来ているそうです。これを機に、少しご自分に当てはめて考える機会にしてみてはいかがでしょうか?

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